HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「「雅―――……」」
二人が同時にこちらを見てきて、あたしは軽く肩をすくめた。
明良兄の指には思った通り、タバコが挟まれていた。
覚えのある匂い。
少し重みがあって―――でもタバコ独特の匂いじゃなく少しだけハッカの爽やかさが漂ってくる。
水月と同じタバコの匂いだ。
あたしはタバコってみんな同じかと思ってたけど、メーカーの違いやタールの量によって若干違うってことを少し前に気付いた。
KOOLブーストの8mm。
タバコを吸わないあたしからしたら、水月の副流煙でさえちょっと迷惑。
それにタバコは百害あって一利なしって言うから止める様言ったけど、水月にとって禁煙は無理そう。
あたしは吸わないし、吸いたいと思ったこともない。
だけど、今は―――こんなにも、安心する。
たかが煙なのに、しかも体にとって毒なはずなのに。
あたしはこの香りをどこかで求めていた。
ねぇ、美術バカ。あたしの彼は選挙権もある成人だし、タバコを吸う大人だ。
お金も自分で稼いでるし、車だって持ってる。
ちょっと頼りないけどあたしをいつでも優しく包んでくれる。
ごめんね、
あたし一人、大人になって。
ごめんね
“恋”が何なのか、“愛すること”がどういうことなのか―――
知ってしまって、
ごめん。
水月がすぐそばに居る気がして、あたしは思わず明良兄に一歩近づいた。
「明良兄、護衛にきてくれたの?」
「まあね。可愛い妹が心配でさ」
明良兄は目を細めて薄く笑うと、あたしの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「汗かいてるから触らないほうがいいよ」
「そうか?」
なんて明良兄は気にせずにその手を止めない。
明良兄の取り繕ったその笑顔の裏に、心からあたしを心配する色が滲んでいた。
明良兄はまるで、あたしの感触を忘れないよう―――しっかりとその手に感触を焼き付けるよう、
あたしの頭をしばらくの間撫でていた。
あたしは明良兄の手から、水月と同じ香りが香ってくるのを体いっぱいで感じ取った。