HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「話逸れちゃった。あたしが神代先生とのことを聞いたのは……」
岩田さんが言いかけたときだった。
「岩田ー!お前、日直!!今朝言ってただろ!?昼休みまでに進路希望調査表集めろって!」
とクラスメイトの男子が球技場の入り口で大声を上げた。
確か岩田さんと今日、日直が一緒の男子だ。(日直は男女一名ずつのペア)
「えー?ってか調査票なんて一人で集めてよ」
「まだ半分も集まってねぇんだよ。ってかお前の分担ぐらい自分でやれよ」
男子は迷惑そうに顔をしかめて口を尖らせている。
「岩田さん、ありがとう。後はあたしがやるよ。
日直の仕事を優先させなよ」
あたしが言うと、岩田さんは
「でも……」とちらりと球技場を眺めた。
どうやら言った言葉に責任を持つ性分なようだ。それとも単に話したかっただけだろうか。
どちらにせよ、
そうゆうとこ、嫌いじゃない。
「ありがと。今度ゆっくり話そう」
あたしが言うと、岩田さんは少しだけ不安そうに球技場をもう一度眺めたが、
「ごめん!日直行ってくるわ」
と顔の前で手を合わせて、きゅっと目を閉じた。
―――岩田さんが慌てて走っていき、あたしは一人でボールを片付けることになった。
岩田さんとの話は楽しかったけれど、その楽しさの余韻に浸っている場合じゃない。
今はきっと乃亜がUSBの内容を見ているはずだ。
急がなくては。
最後のボールを拾って、慌しく倉庫にボールのカートをしまっているときだった。
「何だ、まだやってたのか?」
さっきの体育の先生が、倉庫の入り口で腕を組んでいた。
まだ一つ分カートが球技場のコートの上に残っている。
「すみません、すぐ片付けます」
そう言ってカートを引く手に、先生の手が重なった。