HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
長椅子に腰掛け、タバコを一本取り出し口に含んだ。
機械的な動作でタバコに火を点けると、長々と煙を吐き出した。
ちっともうまくない。
けれど通常の二分の一ほどのスピードで一本を吸い終わり、またも一本取り出し無意識に火を点ける。
立て続けに吸って余計にまずさが増した。
『水月何回言ったら分かるの?新聞読みながらタバコ吸うのやめてよ』
雅に何度もそう咎められた。
だけど長年の習慣をすぐに変える事はできず、無意識のうちに繰り返していた動作を見られると、雅にいつも怒られた。
もう
怒る人も居ない―――
グシャリ
僕はタバコの箱を握りつぶした。
タバコを口に含んだまま俯くと、額に手をやった。
頭が痛い。割れそうだ。
俯いたまま眉間ら辺に手を置いていると、
「先生―――…?」
聞きなれない声で呼ばれて、反射的に顔を上げた。
さっきの生活安全課の婦警さんだった。制服を着用していない、スーツ姿だったから一瞬誰かと思ったけれど、いくら気が動転していたからってさっき見たばかりの顔を忘れるはずがない。
「…どうされたんですか?生徒さんとお帰りになったんじゃ?」
婦警さんが怪訝そうに聞いてくる。
“先生”―――“生徒さん”……か…
「生徒は帰しました。すみません僕も帰ります」
三分の一ほどまでしか吸い終わってなかったタバコを僕は乱暴に灰皿に押し付け、席を立った。