HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
久米はそのことを隠している。
いや、意図的に隠していないにしても、そんな大事なこと担任の僕が知らない状況では非常にマズい。
言いふらすような内容ではもちろんないし、それが久米の
―――弱点でもある。
だから絵の道具も全部捨てた。
高価だろうが、想い入れが強かろうが、捨てざるを得ない状況だったんだ。
二年前の事件―――
それは久米にとってもっとも過酷な運命をもたらした
本当に最悪なできごとだったんだ。
知らなかったとは言え、僕は久米を知らずのうちに傷つけていたのかもしれない。
彼だけじゃない。
当然、久米メンタルクリニックの―――あの父親も久米の隠された弱点を知っていたに違いない。
僕はあの父親も―――傷つけていた。
あの久米メンタルクリニックに飾られたあの絵を見つめる、父親の視線が
とても悲しそうに揺らいでいたのを、
今更ながら思い出す。