HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
マンションまでの道を車でのろのろと走る。
幸いにも僕が選んだ裏道は車も人の通りも少なく、ゆっくり走っていても後続車からクラクションを鳴らされることもない。
それでもメインの通りを横断しなければ、家に帰ることができず僕は仕方なしに大きな国道に出た。
信号待ちをしている間、通りに面したファミレスの窓際で見知った顔を見た。
あれ―――…?
結ちゃん……?
森本のお姉さんである結ちゃんが一人、頬杖をつきながらぼんやりと俯いている。
目の前の信号が青に変わった。
どうしようか一瞬迷ってブレーキペダルに足を置いたままでいると、
ブー!
後ろに続いていた車が気忙しくクラクションを鳴らした。
慌ててブレーキペダルから足を退けるも、
直進するつもりだったのに、僕は何故かウィンカーを左に出していた。
ハンドルも左に切り、慌ててファミレスの駐車場に入ると、後ろの車が再び迷惑そうにクラクションを鳴らしていった。
何故ここに入ったのだろう。
僕自身、自分の行動が謎だったけれど、
「先生……?」
ファミレスのテーブルに一人ぼんやりと頬杖を付き、紅茶を飲んでいた結ちゃんの顔を見て
ああ
僕はきっと
一人になりたいのに、一人になりたくなかったんだ―――
誰かと向き合っていたかったんだ―――
そう実感した。