HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「あ、前を通りかかったら外から君が見えたからさ。どうしたのかな…って」
「へぇ。偶然」
結ちゃんは無理やりと言った感じでぎこちなく笑顔を浮かべ、
「お茶でも飲んでいきませんか?」
と、僕を前の席に勧めた。
六人ほど座れる広いテーブル席に結ちゃんはたった一人。それが余計にさびしく感じさせられた。
僕は彼女の真向かいに腰を降ろす。
「何してたの?うちに帰らなくて大丈夫?」
僕が聞くと、結ちゃんは表情を曇らせて窓の外を眺めた。
「………」
俯いて口元を引き締めている。
聞かれたくないことかと思って僕も口を噤んでいると、結ちゃんは窓の外を眺めながらぽつりと漏らした。
「お母さんと喧嘩したの。エミナがあたしのお気に入りのピアスをどこかへ無くして、怒ったら、お母さんが……」
結ちゃんはそこまで言って深くため息を吐くと、額を押さえた。
「ピアス―――?」
「うん。桜貝みたいな色のパールのピアスで。伊勢旅行に行ったときにミキモトで買ったやつ」
パール……ミキモト…
「それは高価なものなのに…残念だね」
「でしょ!?高かったけど、一目ぼれして……でも奮発して買ったのに…」
結ちゃんは怒りを思い出したように声を荒げた。
「真珠はあたしの誕生石でもあったし」
「……誕生石?」
「うん。六月の誕生石。だから余計に大事にしてたのに、ちょっとエミナに怒ったら、今度はお母さんがあたしを怒ってさ」
結ちゃんは力なく言うと、すっかり冷めた様子の紅茶を啜った。