HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「ピアスの一つぐらい代わりがあるでしょ!大体ピアスなんてあけて…ってそこからまた怒り出したから」
結ちゃんは紅茶を啜りながら目を伏せる。
「バカみたいでしょ。それだけで家飛び出してきちゃってさ」
自嘲じみた笑みを浮かべて彼女は、はぁ、と少し大きなため息を吐いた。
僕は首を横に振った。
「そんなことないよ。想い入れもある大切なものだし。それを説明すればお母さんも分かってくれるんじゃないかな」
僕の答えに、結ちゃんはここに来てようやくうっすらと笑った。
「ありがと。やっぱり先生は優しいね」
だけどすぐに表情を引き締め、
「うちの親は、あたしが一生懸命説明したって分かってくれないよ。
あたしのこと、分かろうとしない。
大事なのはエミナだけだもん」
何て、答えればいいのか分からなかった。
子供が大事じゃない親なんて居ないんじゃないか。
どんな親だって――――子供が大切なんじゃないか。
僕はふと、久米父子のことを思い出した。
淡白そうに見えて、無関心そうに見えても、あの父親もきっと久米のことを大切に思っているに違いない。
そう思ったけど、今は何を言っても無理そうだ。
大体そんな軽いことなんて誰でも言える。結ちゃんと彼女のご両親に入った亀裂は、
僕が簡単に修復できるほど、浅いものでもなさそうだ。
余分なことに首を突っ込むのは良くないことかもしれないけど、いずれ森本家に渦巻いている暗い事情を解決できれば、と思う。
そうしたら、森本自身
何かに追い立てられるように、あんな余裕をなくして必死に生きることはないのじゃないか。
親の目を気にして、成績に固執して。それだけなんてつまらないよ。
高校生活は人生で明るく輝く時期なんだから、もっともっと彼女には楽しく
生きてほしい。