HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
僕が頼んだコーヒーは割りとすぐに運ばれてきて、ついでに僕は結ちゃんの分の紅茶を追加注文した。
「何か食べない?もう夕飯どきだし。食べてないでしょ?」と話題を変えてメニュー表を見せた。
結ちゃんは頭を僅かに横に振る。
「要らない。先生食べたかったらどうぞ」
「……生憎だが僕も食欲がないんだ…」
僕は差し出したメニュー表を引っ込めた。
「どうして?」
結ちゃんの質問にどう答えるべきか一瞬悩んだが、僕はその後すぐに
「さっき彼女にフられたばかりだから」
そう答えていた。
結ちゃんが目を開いてまばたきをすると、唇を引き結んだ。
「……ごめん。変なこと言って」僕は何でもないようにわざと明るく笑ってコーヒーのカップに口を付けると、
「そんなときまで無理して笑わなくてもいいんじゃない?」
結ちゃんは紅茶のカップを両手で包みながら、そっと呟いた。
僕が口の端を変な風に吊り上げたまま、表情を強張らせると、
「悲しいときは―――泣けばいいんだよ」
結ちゃんの声は囁きのように小さかったが、僕の耳にははっきりと聞こえた。