HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


みっともなく泣いてしまったあと、僕は気まずそうにひとつ咳払いをして、目尻を乱暴に手の甲で拭った。


「何か、ごめんね」


慌てて言って無理やり笑うと、


「ううん。気にしないで」


結ちゃんも微苦笑を浮かべて手を振った。


コーヒーもすっかり冷めてしまっている。食事をするつもりでもなかったけど、外を眺めると雨のせいかどんよりとした夜の闇が道路を覆っていて、随分時間が経っていることに気付いた。


「遅いし帰ろうか。送っていくよ」


僕が促すと、結ちゃんは僕から顔を逸らした。


「帰らない」


「帰らない……ってどうするつもり?」


「分からない。だけど帰りたくないの」


「分からないって……」


僕はちらりと腕時計を見た。もう夜の9時を過ぎている。


「どうするつもり?友達のところに泊まるの?家の人たちはこのことちゃんと知ってる?」


僕が心配そうに聞くと、


「家族には知らせない。でも大丈夫だよ、お母さんとお父さんはあたしを心配なんてしないから」


心配―――しない……?




「前にも何回か無断で外泊したことあるけど、連絡来なかったし。


あの人たちはエミナがいればいいんだよ。



あたしなんて、あの家で必要ないんだ」




結ちゃんはどこか遠くを見るようなうつろな視線をテーブルに投げかけて、再び紅茶を啜った。


その姿が以前、妹である森本が「家に帰りたくない」と泣いていものに―――


重なった。






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