HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
二人分のお茶代をレジで払って会計をすると、
「あたしの分は出すのに」と言って結ちゃんは長財布を開けている。
それを遮って、
「大人ですから」と冗談ぽく断ると、結ちゃんは笑った。
外に出ると、雨は止んでいたものの秋の冷たい風が頬を撫でていき、少しだけ肌寒さを感じた。
結ちゃんはウェスタンブーツにショートパンツ。上にはグレーのパーカーを羽織っただけの格好だ。
少し寒そうだ。
「送っていくよ。何なら僕からお母さんに説明するし」
と言うと、
「ありがと。でも大丈夫。歩いて帰るよ」
と彼女はやんわりと断った。
「得体の知れない男の人の車に乗るのは危険だって、どこかの先生が教えてくれたから」
僕はほんの僅か声を上げて笑って
「遅いから一人で帰すのも危険だから、乗っていきなさい」
強引でない程度でもう一度促すと、
「じゃあ」と言って結ちゃんは大人しく僕についてきた。
「お邪魔します」
控えめに言って、「よいしょ」と小さく掛け声を上げて車に乗り込む。
車高をいじって少しだけ低くしてあるとは言え、乗り慣れていない女の子にはやっぱり乗りづらいだろう。
「大丈夫?」
運転席に座った僕は、手を差し出して彼女の腕を引いた。
「…ご、ごめんなさい」
結ちゃんが手を引かれて恥ずかしそうに笑う。
「“ありがとう”だろ?」
僕が笑うと、結ちゃんも安心したように頬を緩めた。