HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
まこのことを考えると、彼と良く似ている愛しい人も必然的に思い出す。
雅―――……
数時間前、彼女は僕の腕の中にいた。
明るい笑顔。色っぽい微笑み。
大人みたいな微笑を浮かべて、それでも子供っぽい可愛い我侭を言っていた。
少し低めの体温や彼女の唇の感触、
ヒプノティックプワゾンの香り―――
この先、彼女以外の香りで満たされることになるのだろうか―――
いや……それだけはまだ考えたくない。
あれこれ思い出すと、またも暗い考えに支配されそうで、僕は口を引き締めた。
急に無言になった僕に、結ちゃんは敢えて何かを聞いてくることはしなかった。
「……音楽、掛けていい?」
静寂に包まれた車内で結ちゃんがぽつりと聞いてきた。
「うん、いいよ」彼女にiPodを手渡すと、
~♪It's my life
さっき行きに掛けていたボンジョヴィの曲が室内を満たした。
収録されてるアルバムがリピート機能で一周して戻ってきたようだ。
「この曲……時々お店で聞くよ。先生このグループ好きなの?意外な感じだね」
「好きだよ。洋楽が好きなんだ」
雅も『顔に似合わず』なんて言ってたっけ。
僕のイメージって何だよ。
「ちゃんと聞いたのってはじめて。
This ain't a song for the broken-hearted.
“この歌は、絶望した人々のためじやない”、か。すごくいい歌」
結ちゃんはしっかりと前を向いて、静かに言い放った。