HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
教室に向かうと、クラスメイトの半数はすでに登校していた。
久米も来たばかりのようで、鞄を机に置き、椅子を引いて腰を降ろしている最中だった。
あたしは久米の机に近づくと、
「おはよ」
と声を掛け、久米の前の席を借りて腰を降ろした。
「おはよう、鬼頭さん」
久米は驚いたように目をまばたき、だけどすぐにいつもの爽やか笑顔を浮かべる。
いつも通り……まるで昨日の出来事が嘘のように普段通りだった。
「はよ~っす…」
梶の声が入り口の方から聞こえて、
「梶くんおはよ~♪」とクラスメイトの女子の明るい声も聞こえた。
あたしたちがそっちに顔を向けると、梶は戸惑ったように目をまばたきその場で立ち止まった。
何か言いたそうに口が僅かに開いたけど、あたしはそんな梶の視線を無視するように久米に顔を戻して
ケータイを久米の机の上に置いた。
久米が「?」マークを浮かべて僅かに首を傾げる。
「お互い番号も知らなくて“恋人同士”って言えんの?あんたのナンバー教えて」
あたしがケータイを突き出すと、久米が目を開いた。
「あんたの条件飲んでやろうっての。
言っておくけどあたしはあんたのこと好きじゃないよ」
念押しするように言い聞かせると、久米はあたしのケータイを手の上からぎゅっと握ってきた。
「今はそうじゃなくてもいいよ。
好きになってもらうよう俺が努力すればいいいだけの話だし?」
久米はあたしの手を握ったまま、挑発的に薄く笑った。