HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
結局、何か聞きたそうにしていた水月だったけれど、
次の授業が始まるということで、深く事情を聞かれることも注意されることもなく
あたしたちは教室に戻った。
乃亜も梶も何か聞きたそうに、ちらちらとこちらを気にしているようだったけれど、あたしはその視線に気付かないふりをした。
午後の二時間、久米は何事もなかったかのように…ってわけにはいかないのか、さすがにあたしと視線を合わすことなくバツが悪そうに俯いている。
それでも立ち直りも早く、授業が終わると
「ねぇ被服科付き合ってくれない?演劇で使うドレスをちょっと加工してもらったんだ。
もう出来上がったってさっき教えてくれてさ。
試着してサイズなんかの調整したいんだけど」
と、にこにこ誘ってくる。立ち直りの早いヤツ。
昔ってこんなんだっけ?ってかこいつがあの美術バカと決まったわけじゃないしな。
授業が終わったあと、残りの生徒も文化祭の準備に忙しそうにしている。
熱が入ってるって言った方がいいのかな。
さっきの騒ぎをクラスの大半が知っていて、あれこれ心配されたり応援されたりしたけれど、あたしはそれに曖昧に頷いただけだった。
それでも、A組に負けられないと言う気持ちがクラスを団結させている。
みんな一生懸命だ。
「おいっ!A組、もうチラシ配布してんぞ!!」
クラスの男子が一枚の紙を握って、教室に飛び込んできた。
チラシってのは出し物を宣伝する広告で、作成・配布の規定はとくになく、強制でもない。
チラシをどこで手に入れてきたのかその男子は、集まったクラスメイトに配って、
「ぅわ!これ堤内?キモッ」と方々で女子の声があがり、
「まぁ実際うまく化けたよな…」と男子の一人がため息。
あたしも回ってきたちチラシを久米と一緒に眺めた。
チラシは淡いブルーのB5コピー用紙で、堤内がひらひらのドレスを着て笑顔を向けていた。
キモいってのは同感だけど、“化けた”って言う男子の意見にも頷ける。
ふわふわのドレスはいかにも女の子が好きそうなパフスリーブのドレスで、メイクもきっちり髪も巻いてある。
写真映りがいいってのもあるな。
かなりのインパクトがあることは間違いないし、人目を惹くチラシだった。
A組……相当金掛けてんな、これ。
「久米、あたしたちも負けてらんない。行こう家政科」
あたしは短く頷いて、席を立ち上がった。
――――
―
「それで家政科に用があったってわけ?あんたこないだ打ち合わせこなかったもんね」
乃亜を呼び出してキスを迫り脅していたときのことだ。
あのことだけは許せないけど。
廊下を歩きながら納得して、
「そうゆうこと。うちは予算も少ないしゲキ部で使った衣装、もう使わないらしいから。
ちょっと古いけど、洗ったらきれいになったよ。
結構本格的なドレス。着るのが大変らしいけど、がんばって?」
しかもちゃっかり家政科にお願いして加工代も浮いたってわけだし?
久米が頼んであっさり引き受けてくれたのは、やっぱりこいつにそれなりの人望……って言うか人気があるからだろうか。
似非王子だけど、たまには役に立つじゃん?