HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
お母さんの言葉は―――
呪いの言葉だ。
一生付きまとい、離れない。心臓や脳を締め付ける。呪詛。
結ちゃんはお母さんに言われた一言で大人しくなったが、顏を真っ青にさせて固まっていた。
僕は今度こそ二人の間に割って入ると
「いい加減にしてください、幾ら何でも言っていいことと悪いことがある」
僕が低く言うと、お母さんは冷静になるどころか、益々肩を怒らせ
「部外者は引っ込んでなさい!これは私たち家族の…!」
「ええ!部外者ですよ!でもこのまま見過ごすことはできない」と僕の方も引っ込みがつかず、思わず語気を荒げると
「あなた、ただで済むと思う!?あなたはエミナの担任ってことだけでしょ!人の家のことにあれこれ口を出してきて。
教育委員会に訴えるわよ!」
出たな、とうとう本音が。
僕の中は焦りや後悔、と言うより妙に白々しい感情が浮かび上がった。むき出しの感情にようやく向き合えた。
「構いません。でもその場合、僕は児童相談所に通報します。結ちゃんは未成年だ。
ネグレクト(育児放棄)されている、と」
僕の言葉に、一歩遅れてお母さんが冷静さをやや取り戻したのか、それとも大人しい僕がそんなことを言い出すとは思っていなかったのか、虚をつかれたように目を開き一歩後ずさった。
「先生…」
結ちゃんがモカを大事そうに抱きしめたまま大きな目に涙を浮かべていて、
「モカを早く温めておいで、今ならまだ間に合うから」と言って僕が廊下の奥を促すと、結ちゃんはぎこちなく頷き大人しく靴を脱ぐとお母さんの横を素通りした。