HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
僕は自分の言った言葉に責任を持つし、撤回しようとも思わない。だからやろうと思えばやる。そう言う気迫が伝わったのかお母さんはきゅっと唇を結び、何か言いたそうにしていたが結局彼女の口から何も語られることがなかった。
「今日はとりあえずここで失礼します。ですがこれ以上結ちゃ…結香さんに酷い仕打ちをするのであれば黙ってはいられません」
「何を仰るの。あなたはエミナの担任でしょ?結香のことまで口出ししないでちょうだい。ただでさえ、エミナのことないがしろにしてるくせに」
「僕は彼女をないがしろになどしてません。誠心誠意向き合ってるつもりです。他の生徒とも同等に。だから僕のことを教育委員会に訴えられても、僕は堂々としている自信があります」
キッパリと言い切ると、お母さんはまたもたじろいだように一歩後退した。
そりゃお母さんからしたら、僕なんてまだ社会人経験も浅くほんの若造だ。だけど教育にかける熱意は誰にも負けない。
「だけど!」
お母さんが何か言おうとしたときだった。
カタン…
階上で小さな物音が聞こえ顏を上げると森本が階段の手すりにしがみついて僕たちを見下ろしていた。
「森本…」僕が彼女を呼ぶと
「もうやめて…」
森本はこっちが心配になるぐらい顔色を青くして弱々しく切り出した。
「エミナ…」お母さんも顏を上げる。
「近所迷惑よ、もうやめて!先生を責めないで、先生は何も悪くない」
声こそ弱々しかったが、その口調ははっきりとしていた。
「でもねエミナ」とお母さんが途端におろおろしたように口元を覆い
「苛めなんてないから」森本はきっぱりと言い切った。「D組で苛めなんて受けてない。誰もそんなことしない。他の子にだってそう。先生のクラスにそんな子はいない」
森本ははっきりと言い、階段を降りてくると
「先生、ごめんなさい」と、また弱々しい声に戻って俯く。
僕はそんな森本の頭に手を置くと
「ありがとう、庇ってくれて。今日は具合が悪かったんだね、ごめんね。先生気付いてあげられなくて」と森本の顏を覗きこむと、森本はぶんぶん首を横に振った。
「明日は来れる?」と聞くと、森本は俯いたまま唇を噛んだ。
「いいよ、出席日数は充分に足りてるし。しんどかったら落ち着いたときでいいから」と言うと森本は安心したように頷いた。