君のためにできること
「誰だろう?」と、なつきは呟いた。


「お父さんとお母さんは、今日は来ないって言ってたのに。もしかして、看護師さんだったりして。また点滴するのかな?嫌だな」


「どうぞ」となつきは言った。


その人物は、部屋に入ってきた途端、つまづいて、転んだ。


部屋の中に、気まずいムードが流れる。


「あれ?うけなかった?」


照れ隠しに、頭をかいている人物。


「君はさっきの・・・・・・」


その人物は、さっき俺が待合室で会った少年だった。


「なつき、久しぶり!入院したなんて聞いてマジ、びっくりしたよ」


少年は俺を眼中にも止めず、一人ではしゃいでいる。なつきは苦笑いしているだけだ。


「なつき、この人誰?」と、俺は訊いた。


なつきは、恥ずかしそうにこう言った。


「幼馴染なの」


「幼馴染?」


「うん、小さい頃、私となつみがいじめられていたとき、よく助けてくれたんだ。これでも二十歳なんだよ、子供っぽいでしょ」


「子供は余計だってば。名前はまことでーす、てか、そこのお前」


急に指を指された。


「俺のことか?」


「お前、もしかして優って名前か?」


俺は、まことを睨んだ。さっきからやけにいらいらする。


「そうだよ、俺は優だ」と、俺は言った。


「よく、手紙でお前の話しをしてたよ。なつみもなつきも」と、まことは言い、鼻で笑った。


「自己紹介する手間がはぶけてちょうどいい」と、俺は言い、まことを睨んだ。


突然だった。なつきが大きな声を出した。


「今、優は、私の彼氏なの!」


部屋には、沈黙が訪れた。
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