揺れない瞳
「川原さんは、紗代子さんの事が大好きなんですね」

いいな。羨ましい。

そんな気持ちを言外に漂わせながら、思わずそう呟いてしまった。
川原さんの口調や態度が甘さに満ちているわけではないけれど、紗代子さんから離れられない気持ちを隠そうとはしていない。
そんな気持ちが、愛想のない態度を中和させていて、何だかほほえましくなってくるし、羨ましい。

恋人からこんなに求められている紗代子さんが、たまらなく羨ましい。
私自身をこんな風に求められた経験なんてないから、たまらなく羨ましい。

羨む感情が私の中に大きくなってきて、目の前にいる二人の口げんかでさえ些細な事に思えてしまう。
結婚するって決めるくらいにお互いがお互いを好きで、将来を約束できるなんて幸せ過ぎる。

未来に控えている幸せな日々を思えば、どんなウェディングドレスを着たっていいじゃないかと意地悪な気持ちにもなったりする。

結婚式を挙げても挙げなくても、愛する人から愛されて、一緒にいられるのなら、それ以上に求めるものはないとも思う。
目の前にいる二人の事を全く知らない私が、何の先入観もなく単純に見ているのは二人の本当の想い。

淡泊な態度と優しくない口調で紗代子さんに言葉を投げる川原さんだけど、心底紗代子さんを愛していると思う。
そんな川原さんに、素直になれない理由を抱えているような紗代子さん。

二人の本当の気持ちは。きっと。

「私の作ったウェディングドレスを、どうしても着たいわけじゃないし、着せたいわけではないんですよね」

にっこりと笑う私に、川原さんも紗代子さんも驚いた顔で視線を向けてきた。

……ビンゴ。




< 195 / 402 >

この作品をシェア

pagetop