揺れない瞳

自分の気持ちは、わからない事ばかりなのに、目の前に並んで座っている二人の気持ちはわかりすぎるほどわかってしまう。
そんな事を考えると、なんだかおかしくなってくる。

「紗代子さん、どうしますか?このドレス、着ていただいても構わないですし、本当に着たいドレスを選んでいただいてもいいですよ」

「あ……。着たいドレス……。それは……」

ふっと暗くなった紗代子さんの表情と声は、誰が聞いても悲しそうに響いている。
川原さんを見ると、口元が一瞬苦しそうに歪んだ。

「私が着たいドレスは、忍が作ってくれたあのドレスだけど、あのドレスじゃ私がすごく年上って感じに思えるんだもん」

「……は?」

「だって…忍が私に似合うって言ってくれたあのウェディングドレスは、マーメイドラインで綺麗だし、あまり飾り立ててなくて私好みのあっさりしたデザインだけど……。
あのドレスを着て忍と並んだら、私が年上だってはっきりとわかるから嫌なの」

悲しそうに吐き出される言葉は、紗代子さんの悩みがそのまま込められていて、泣き出しそうな瞳と共に、とても重く感じる。

隣で聞いていた川原さんは、それまでの落ち着いた様子を一転させて、驚きに満ちた顔を紗代子さんに向けていた。
まるで、今初めて紗代子さんの気持ちを知ったかのようにも見える。

「おい……年上に見えるって……そんな事を悩んでたのか?」

「『そんな事』じゃないの。私には大した事なの」

茫然と呟く川原さんの言葉に鋭く反応した紗代子さんは、強い口調でそう言い返した。
多分、ずっと悩んでいたんだろうな。結婚式を来週に控えた今になって、私の作ったウェディングドレスを着たいと言い出すほどに、心は混乱してるのかもしれない。
さっき紗代子さんが言っていたように、本当は川原さんが作ったウェディングドレスを着たいんだろうと思う。
恋人が作ったウェディングドレスを着て結婚式を挙げられるなんて、女の子の憧れかもしれない。

目の前の二人が、更に羨ましくてたまらなくなる。

けれど、私の羨ましがる感情とは裏腹に、川原さんは大きなため息をついた。
椅子の背もたれに体を預けたまま、隣の紗代子さんに視線を向けた。
と同時に手を伸ばして、膝の上でぎゅっと握りしめられている紗代子さんの手を優しく包み込んだ。

「俺より年上なのは、事実だから仕方ないだろ。
そんな事は俺たちが出会った小学生の時から、死ぬまでずっと変わらないんだから」
< 196 / 402 >

この作品をシェア

pagetop