揺れない瞳

「小学生の時?」

川原さんの言葉に、私は思わず反応した。小学生の時からだという事は、二人は幼馴染っていう事なのかな。

「ああ。俺と紗代子は小学生の時に通っていた音楽教室で知り合ったんだ。
それからずっと付き合ってたわけじゃないけど、結局は来週結婚する事になった」

「そうなんだ……」

淡々と話す川原さんの表情は、昔を思い出しているように目を細めて穏やかだ。
紗代子さんの手を包み込む手はそのまま置かれていて、紗代子さんもその手を離そうとはしない。
紗代子さんの心は混乱しているようで、固く結ばれた口元からも落ち着かない様子は伝わってくる。
だからといって、お互いの距離を広げようとする殺伐とした雰囲気はまったく感じられない。

お互いを、大切に思っているんだな。

いいな。いいな。

目の前の二人が醸し出す雰囲気と、小学生の頃からお互いを知っているという事が、私には羨ましくてたまらない。
私には、小学校時代に関わらず、長く付き合いを続けている友達は少ない。
施設で育った事へのコンプレックスもあったし、そんな私の状況を詮索されたり、同情されたりすることを極端に恐れていた。

他人と関わる事を拒否しながら、今まで生きてきた。

そんな自分をどうにか受け入れて、羨ましさや妬ましさですら私の心には生まれないように生きてきたから、一人ぼっちの毎日を乗り越えられた。
感情を閉ざして、揺らさないようにして、今まで生きてきたけれど、今は。

目の前の二人を知っていくにつれて、『羨ましい』という感情が、私の中で大きくなっていくのを感じる。

お互いを大切に思う変わらない気持ちが、とても尊いものに思えてならない。

そして『羨ましい』と素直に思える自分を認めると、ほんの少し、楽になれたような気がした。
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