揺れない瞳
しばらく何かを考えていた川原さんは、それまでの強い口調とは打って変わって優しい声で、

「せっかく来てもらったのに悪いけど、そのウェディングドレスを借りるのは止めるよ。本当、申し訳ない」

軽く頭を下げた。
ずっと漂っていた緊張感に溢れた様子とは違った表情は、とても温かかった。

「紗代子には、俺が作ったウェディングドレスを着せるから、不破さんのドレスは持って帰って欲しい。……無理矢理、付き合わせて申し訳なかった」

じっと私を見つめる瞳には、『もう、決めた』という固い意思が感じられた。
今日初めて言葉を交わしたばかりの川原さんに対する私の印象は、かなり強引な人。

そして、無表情のまま落ち着き払った態度は、威圧感に覆われた人だった。

何が何でも私が作ったウェディングドレスを紗代子さんに着せてあげようと、私をこのカフェに無理矢理連れてきた事だけでも驚いたけれど、今目の前にいる川原さんはさっきまでとは別人のようで更に驚いた。

そして、まだ自分の気持ちに整理がつかないのか目を伏せている紗代子さんを気遣いながら、何故かほほ笑んでいた。

強引で表情のなかった川原さんとはまるで違う、今目の前にいる川原さんの様子に驚きすぎて、私は声も出ない。

ただ、川原さんに愛情を向けられている紗代子さんが、羨ましかった。

そして、羨ましい羨ましいと、何度も心の中で呟く自分を、とても新鮮に感じた。

羨んだり、欲しがったり、積極的に感情を広げた事が極端に少ない今までを振り返った。
そして、穏やかに生きる為に閉じていたあらゆる感情が私の体に溢れ出すのを、止めることができなかった。



< 198 / 402 >

この作品をシェア

pagetop