揺れない瞳
紗代子さんの気持ちが落ち着いたのは、それからしばらく経った頃だった。
渋々ながらも、結婚式には川原さんが作ったウェディングドレスを着る事に頷いた時、川原さんは本当に嬉しそうだった。

やっぱり、そうだよね。
川原さんにしてみれば、自分が作ったドレスを着せたいよね。

「……結婚式が、楽しみですね」

ふふっと二人をからかうような口調になってしまうのは仕方がない。
目の前には熱い空気を漂わせる二人がいるのに、あっさりと話すことは難しい。

私がにっこりと笑顔を向けた途端に、その場の空気は更に熱くなったような気がする。二人からこぼれる愛情を見て、更に更に、羨ましさを感じた。

その時、鞄に入れていた私の携帯が鳴った。

「あ、ごめんなさい。……私の電話です」

携帯を見ると、加賀さんの名前が出ていた。

「あ、バイトっ」

小さく叫んで、慌てて電話に出た。

「すみません、……遅刻ですね、連絡も入れずにすみません」

『結乃ちゃんが連絡もなしに遅刻なんて初めてだから、心配していたんだけど。
何かあったの?』

気遣うような加賀さんの声に、あたふたとしてしまった。
既にバイトに入るべき時間は過ぎていたのに、すっかり忘れていた。

「連絡も入れずに、本当にすみません。今から行きます。
30分ほどで着くと思います。……すみません」

『そんなに慌てなくても大丈夫よ。結乃ちゃんに何もなければいいから。
今日はそれほど混んでいないから、もし用事があるなら休んでもいいわよ』

「いえ、大丈夫です、今すぐ行きます」

加賀さんや、今日お店に出ているバイトの仲間達に申し訳ない。
電話を切った後テーブルにお金を置くと、川原さんと紗代子さんに謝りながら席を立った。

< 199 / 402 >

この作品をシェア

pagetop