他がために悪はある
頬を掠めもしないそれは、土を抉り、抉り出された土は彼女の顔を汚す。
「俺の正義はな、ここにいる仲間を少しでも多く、家に帰させることなんだよ」
徐々に剣が、土に刺さったまま彼女の顔に近づく。
剣も気になるが、男が吐く言葉も気になった。――いや、気に入らなかったのか。
「ふざけたことを――」
「あん?」
「正義?どの口が語る。殺しを美化しようとしているだけでしょう、それは。何が正義だ。あなたがやっているのはただの――」
剣を手繰り寄せ、男の脇腹を抉る。反射神経はいいらしく、男はすぐに離れて、それほど傷は深くない。
憎しみ色の眼球を痛みで震わせて、眼球で見たのは突っ込む彼女の姿。