メリアと怪盗伯爵

 物音に驚き、メリアは飛び起きる。誰か、屋敷の者に見つかってしまったかもしれない、と。

『ガサッ』

 暗闇の中、メリアは訝しげに目を凝らした。
「だ、誰かそこにいるの…?」
 草影に何かが潜んでいるのを感じたが、返事は無い。
「ど、どなた…?」
 メリアはゆっくりと立ち上がり、恐る恐る草陰に近づいてゆく。

『トサリ』と何かが倒れるような音がして、メリアは草陰を覗き込んだ。
草陰に見つけたのは、倒れ込こんだ一人の男だった。

「た、大変っ!」
 メリアは目を丸くして、慌てて男に駆け寄る。
 真っ黒な黒服に、この御時世には見受けられない黒いマント。顔の八割を覆い隠す黒の仮面の下から、薄い唇だけが露になっていた。
 メリアははっとして男を見つめる。

「この人、もしかして…」

 彼は間違いなく噂の人物のようだった。このところこのロンドローゼの街を騒がている噂の大怪盗、”闇の騎士(ダーク・ナイト)”。
 彼の正体を知る者はおらず、彼の利口さと軽い身のこなしは、警官達の頭をひどく悩ませていた。
 一方で、彼を慕うファン達が出始めていることも、有名な話だ。

(ど…どうしよう…!)

メリアがあたふたと周囲を見渡し、もう一度彼を見下ろす。

(け、警察を呼ばなきゃ…)

 メリアが屋敷に方向転換しようとした瞬間、強く足首を掴まれ、「キャッ」と、メリアは小さな悲鳴とともに芝生へと尻餅をついた。

「待て・・・」
 男は呻くような声で確かにそう言った。
 掴まれている足首を持つ手がするりと解け、メリアは男の様子がどうもおかしいことに勘付いた。
 暗闇にじっと目を凝らし、メリアはもう一度男を覗き込んだ。
 ひどく荒い息で、男は脇腹を庇うようにして地面に倒れこんでいる。



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