キミ色
「出来た!櫂、行こう?」


満面の笑顔を俺に向けて言う空羽。


あんな笑顔を見せられたら、行かないとは言えない…。
俺は頷き、鞄を持ち上げようとしたが、その時ふと体が止まった。


一緒に登校…?


普通に考えて、一緒の部屋から出てきて、一緒に登校するのはヤバい…。


誤解される可能性100%だし、それに変に噂を立てられたらまた空羽がいじめられるかもしれない…。


そんなことになったら、ここに来た意味がない。
俺だって、誤解されるなんて絶対にごめんだ。


真新しいローファを機嫌よく足にはめていく空羽。
そんな姿を見て、俺は声をかけた。



「空羽、先に行ってて。」


勿論、不思議そうに振り返る空羽
これもお前のタメだよ。


「櫂は行かないの?」


「後から行く。」


「…どうして?」


「もうちょっと後でも、走れば間に合うし。空羽は先に行って。」


納得していないのか、少しだけ不機嫌になったのか、顔を下に向ける空羽。


そんな表情向けるなよ。
なんか、俺が悪いことを言ったみたいに感じる。


そして、空羽は小さい声で呟いた。


「…行ってきます。」


声と同時にガシャンと音を立てて閉まるドア。


はぁ…とタメ息を零し、リビングに戻る。
窓から下を覗くと、てくてくと下を向きながら歩く空羽の姿が目に映った。


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