空と砂と恋の時計
逃げ出すように私は階段を駆け降りた。
三年生の教室がある二階まで降りて、後ろを振り向く。貴志が追ってくる様子はない。
嫌われちゃったかな。無理もない。あんな非道い事言っちゃたんだし。
気が抜けて、ヨロヨロと覚束ない足取りで人目の付かない空き教室に入る。
壁にもたれ掛かると腰が抜けたように一気に崩れ落ちた。
「あはは……私ってば、馬鹿みたい……」
視界が霞む。世界がグニャグニャになって、このまま私もろとも消してくれれば、もうこんなに悲しい気持ちになる事もないのに。
「あ、百合。こんな所にいたんだ」
驚いて、振り返ると扉の向こうには香里がいた。
やばっ。多分、今の私の目は真っ赤に決まってる。こんな顔見せられない。
必死になって顔を隠そうとするが、香里はすぐに私が泣いていたんだと見抜いてしまった。
「ちょっと、目が真っ赤じゃない。景子と真紀は――うん、今は呼ばない方が良いよね」
「……ごめん。そうしてくれると助かる」
「ほらっ、こんな所に蹲ってないで、ちょっとそこの椅子に座って落ち着きな。少しだけ私と話そう」
手を引かれ、促されるまま椅子に着席する。
香里も椅子をずらして私と向かい合うように座った。