失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「イギリスの大学を翌年卒業すると

いう頃…あの女の弁護士がわざわざ

イギリスまでやってきた…あの女が

死んだから遺言を執行しに来たと言

った…」



いつもの低い声…だがその声は

わずかに不安を帯びていた



「黒くて分厚い書類ケースがひとつ

…他にはなにもなかった…中を確認

するとその中身は…あの女の集めた

極秘資料だった…遺産は金ではなか

った…金づるだ…その頃は変態義父

の寵愛も冷めていた…高校を卒業す

るとあの男は興味を失うらしい…ま

た新しい男の子をどこからか連れて

きて仕込む…用済みの私は入った大

学の寄宿舎に放り込まれ大学を出た

らお払い箱だった…卒業後の進路を

決めようとしていた矢先に新たな職

種が舞い込んできたってわけだ…つ

まり"犯罪者"という仕事がね」



話しているうちに彼の声の不安が

消えようとしていた

替わりに苛酷な過去を嘲笑うような

乾いたトーンが見え始め

その乾きに僕は痛みを覚えた





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