失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
それから一週間後
僕はまたあの病院を訪れていた
さわやかに晴れた秋の昼下がりは
透明な風の香りがした
(来て…また来て欲しい…)
あの言葉が社交辞令じゃないのは
僕にもわかった
なぜ兄がそれを受け入れたのか
それはよくわからなかったけれど
僕を気遣ってくれてるのだろう
優しい兄のことだ
それが変わらなかったことは
あの日よくわかったから
まだ多少の緊張感の中で
僕は病室のドアをノックした
「はい…どうぞ」
ゆっくりドアを開けると
兄の声がした
心臓がドキンとした
「待ってたよ…そこ座って」
兄は微笑みながら僕にそう言った
ベッドが起こされていて
兄は前と同じように半身を起こして
ベッドにもたれていた
ドキドキが収まらないまま
僕は兄の顔も見れずに椅子に座った
「…変わり…ない?」
ベッドの兄に尋ねた
喋り方がぎこちない
バレバレなのが恥ずかしかった
「うん…まだね」
まだ…
病気が進行してないことを祈った