失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「君の事件の話も…あのあと先生か
ら聞いた…なんだか…他人事とは思
えない話で…シンクロしてるみたい
で…」
「そう…だね…ホントだ」
僕は兄に言われて気がついた
「なんでかな…でもいつもそうだっ
た」
「いつもって?」
兄に聞かれて僕は答えた
「兄貴の味わったことを僕は追いか
けるように体験させられる…たぶん
理解したくて…」
兄は驚いたように尋ねた
「じゃあ…私がなにもかも失ったか
ら…君も?」
「うん…なにもかも失った…記憶じ
ゃないけど…僕にとってのすべてが
失われたんだからなにもかもだよ」
僕にとってのすべてだった
兄貴がね
兄には言わなかったけれど
心の中で僕はそう言った
「じゃあ…私がもうなにも失うもの
がないって思えた…そのとき君は?
…君はいま…どうなの?」
兄はまた僕に訊いた
「僕の世界はリセットされた…淋し
いよ…でも…なにかに寄り掛からな
くても…僕は生きていける…たぶん
ね…まだ確信はできないけど」
でももうすぐ…
いやでも分からされる
あなたが旅立つ日には
僕がそれでも生きていられるか
僕は僕自身でそれを
見届けなきゃならないんだ
独りでね