失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
また世界がグラっと揺れた
今ここでもう一度泣き叫べる
「言わないでよ…わかってるのに」
「ごめん」
「他人だよ…兄貴にとっては…」
兄は黙った
「逝くって決めたんでしょ…僕たち
を置いて」
意地悪を言ってる…わかってて
「いいじゃない…やりたいことやっ
てよ…せめて後悔しないで欲しい」
兄は黙ったままだった
僕は立ち上がった
兄の手がスルッと下に降りた
温かさだけが僕の手に残った
そして兄の車椅子を押し
堤防から病院へ戻った
病室に二人で無言で帰った
兄の介助をしてベッドに戻す
「悪いね…ありがとう」
ようやく兄が口を開く
「ううん…いいよ…」
僕は後悔していた
兄の残り少ない時間を汚したようで
とても気分が悪かった
あんなに満たされた瞬間のあとに
こんな気持ちになるなんて
それも後悔だった
こんな気持ちでは帰れない
そう強く思った