失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「兄貴だけど…兄貴じゃない…あな
たはそんな存在…いまの僕には」
兄の口元がフッと緩んだ
「そうだったんだ…じゃあ…もう私
のことは…記憶喪失の前みたいな感
情は…そんなに無いんだね…」
兄の言葉は少し自嘲気味だった
「ごめんね…そんな君に勝手なこと
言って…困らせた」
「だったら…いいのにね…僕も少し
は楽になれたかも」
そうなれたらいい
どこかで期待してたこと
でもダメだね
全然ダメだ
あの時
思い知った
手に触れただけで
身体が痺れるほど
好きだ
「好きなのは…あなたの記憶じゃな
いんだね…あなたの存在そのものが
…僕にはかけがえがないって…」
そうだよ
おぞましくて怒りに震えた
あの幼い頃の夢の中の記憶さえ
今はあなたの存在の愛しさに
あとかたもなく消えてしまって
逢えた瞬間に
なにもかも許してた
それがよくわかったんだ
さっき
あの海風の中で