ラッキービーンズ~ドン底から始まる恋~
足早で出口へと向かう私に水嶋は悠々とその長い足で歩調を合わせてくる。


「なに? 急いでんの?」

「う、うん。だって遅いし」

「なんでこんな時間まで残業してんの? 予定あんなら断れば?」


一緒に歩きたくないオーラを全力で出す私に、ひるむことなく話しかけてくる水嶋。


そうだった。

コイツにこういうのは通用しない。


そう悟るとあきらめの気持ちから歩調が緩む。

それに合わせて水島もゆっくりと歩くから、私達はずっと隣に並んだまま会社を出た。


「……いいの」

「何が?」

「予定があっても、なくても。だって仕事だし。断れないし。べつに、いいの」


あきらめたように頭を振りながら、投げやりに応える私に答える意地悪な声はない。

それが不思議で、つい、隣を歩く水嶋の顔を見上げてしまった。


ぎゅっと眉根を寄せてすごく不機嫌そうな顔。

そんな表情を見るのは初めてで、一瞬、戸惑ってしまった。
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