空を翔ける一筋の流れ星
「それでも、俺は死ぬという選択肢は無かった。

二人を見守る側になった。

だから、俺は泣かなかった」


手摺に手を掛け、涙を流す彼女のことが頭の中に浮かぶ。



自分の目に映った現実に、どれほど涙を流したのだろう。



辛く、悲しく、胸が痛い・・・



そのときの彼女と、あのときの俺は同じ気持ちだったはず。



しかし、俺は涙を流さなかった。


いや


「本当の・・・馬鹿野郎は俺だよ」


泣かなかったんじゃない・・・泣けなかった。


「泣けたあんたを、ほんの少しでも羨ましく思った。

本当に・・・馬鹿野郎だよ、俺は」


自分が人に対して、偉そうに説教をするような人間だとは思わない。

事実、これは説教や説得のようなものではない。

これは単なる愚痴にすぎなかった。

俺は幽霊二人に愚痴をこぼすくらいに、情けない男だ。


「・・・あの」


この空気を懸命に切り裂こうと、空が必死になった声を出した。

それでも、それは空にとってはあまりにも厳しいことだったようで、必死さとは真逆に小さな声にしかならなかった。


「あっ」


そのとき、幽霊の最後の記憶であるマンションの屋上へと再び切り替わり、彼女がこちらを向いている。

口元が僅かに動いたと思ったとき、彼女は小さく手を振り、そのまま薄らと消えていった。
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