デスペリア


「あ、あ……あ……」


顔に雨のように降り注いだ“異物”に、チルチは言葉を失った。


「は?きゃあ、とか、うわあとかねえの?つまんねー」


予想外だったか魔物が興が冷めたと言わんばかりに、チルチを踏む足に力を込めた。


「あ、ぐっ……か、はっ……」


腹部の圧迫により、くぐもった息を出すも、チルチの眼はずっと虚ろだった。


抵抗しなかったのは全ての力が抜けたからか。生きることを放棄したからか。


放棄、したかった。


「あぐっ……ミュ、ミュ……」


走馬灯とは現実逃避だった。


一緒に散歩し、一緒に食事し、一緒に寝た。笑っていた思い出しか頭に流れない。時折、チルチの頭に“赤いモノ”が出てきたが、違うと否定して、また思い出にすがった。


< 97 / 119 >

この作品をシェア

pagetop