つむじ風。
長野は寒かった。
雪もまだ名残惜しそうに残ってやがる。
4月はもっとあったかいもんだと思ってた。
もうそっちでは
桜が咲いてるだろうな…
もうおまえは知ったはずだ。
俺がいなくなったって…
すまない、博子。
本当にすまない。
伯父さんの家は窮屈だった。
代々続く酒屋。
町全体も昔ながらの家が多く、
風習やしきたりにうるさかった。
俺からしてみれば
ただの古臭い連中だ。
だが、おふくろの入院費や
俺たちに学費、生活費を
伯父夫婦が立て替えてくれていた。
だから文句は言えない。
あの人たちは俺たち兄弟を見るたびに
金の話を持ち出した。
俺は高校生だったから
まだマシな方だ。
逆に大学生の兄貴には
「無理して大学に行く価値はあるのか」
「やめて働け」
あからさまに嫌味を言った。
それにも負けず、
兄貴は授業の合間を縫って、バイトをしてた。
夜も寝ずに、だ。
疲れ果てて、
俺たち兄弟に与えられた6畳一間の部屋で
泥のように眠っている兄貴を
伯母さんはたたき起こす。
商売の手伝いをしろってな。
もちろんタダ働きだ。
兄貴は文句も言わずに従う。