つむじ風。
「亮二」
学校から帰ると、
伯父さんが晩酌中にもかかわらず、
俺を呼び止めた。
毎晩毎晩、赤ら顔でみっともない…
そう思った。
「…はい」
俺はこの男が嫌いだ。
口を開けば、金、金、金を返せって…
「帰ってきたら、まず言うことがあるだろ」
「…ただいま…帰りました」
「ったく、世話になってるくせに
礼儀もくそもあったもんじゃねぇ」
「……」
「おまえの親父もロクなやつじゃなかったけどな」
伯父さんと親父は、仲がずっと悪かった。
おふくろとの結婚も大反対されたらしい。
顔を合わせるたびに
親父と伯父さんが言い合ってたのを
覚えている。
「なんだよ、その目は!
文句あんのか!」
ずかずかと近寄ってくると、
平手で俺の頬を叩いた。
「親父とそっくりな目をしやがって!」
「…すみません」
俺は下唇をかんで、
その場をあとにした。
悔しかった…!
いつもこうやって
俺たちをバカにすることを肴にして
飲みやがって!
俺は部屋に入ると、電気もつけずに
膝を抱えた。
外からは微かに鈴虫の音がする。
静かな夏の終わりの夜。
それとは裏腹に、煮えたぎるこの怒りを
どうにか抑えようとした。
堅く目を閉じ、
ゆっくりと呼吸を繰り返す。
握りしめた拳が小刻みに震えた。
『新明くんの手、
蝶が留まってるみたいだね』
あぁ、博子。
今おまえはどうしてる?
俺はこんな無様な姿で
小さくなってるよ。
あの俺が、だぜ?
笑っちまうだろ?
なぁ…