つむじ風。
それからしばらくして、
おふくろが退院した。
俺たち兄弟が使ってる部屋で三人、
「川」の字になって寝た。
おふくろを真ん中にして。
その翌朝、伯母さんが言った。
「藍子さん、配達に行ってきてちょうだい」って。
耳を疑った。
昨日退院してきて、
こんな骨と皮だけになったおふくろに
配達してこいだって?
歩くのもやっとなのに?
一升瓶を何本も自転車の荷台に載せて?
「ちょっと待ってください!
それはなにがなんでも…」
兄貴が懇願するような目を向ける。
だが返ってきた言葉はこうだ。
「うちはタダで食べ盛りの子を二人もみてやってんのよ。
あんたの入院費だって立て替えてる。
ちょっとくらい働いて返してもらわなきゃ、
うちだって破産しちゃうわよ!」
俺たちに腹いっぱい食わせてくれたことなんて、一度もないくせに。
よくもそんな!
でもおふくろは笑って
「お手伝いさせてください」
と言った。
「…俺が代わるから、寝てろよ」
「大丈夫よ、亮二。
あんたは早く学校に行っておいで」
「…だって無理だろ!
どう考えてもそんな身体で!」
「亮二、落ち着けよ。
ほら遅刻するぞ、早く仕度しろよ。
さぁ、母さんも横になって。
俺、講義の前に配達してしまうから」
「何言ってんだよ!
兄貴だって単位落としたらどうすんだよ」
「いいから、早く学校行けって」