つむじ風。
今、隣でそんな顔のおまえを見ると、胸が痛む。
あの頃、おまえには幸せになってほしいと望んだ俺が、今その幸せを壊そうとしているからだ。
なぁ、博子。
プラネタリウム、意外と悪くないな。
嘘っぱちの星空でも
見てると、なんだか不思議な気分になる。
目の前のことで必死になって生きてるけど、
空の下では俺がヤクザで、おまえが警察官の妻だなんて、本当にちっぽけな垣根に思えてくる。
俺たちの存在なんて、本当に小せぇんだな。
不思議だな…
「次は、どこに行きたい?」
いつも通りの駅前で、俺は訊いた。
「あ…次…?」
しきりに髪を撫で、明らかに困ってる。
もういいだろ、そんな顔しなくても。
俺が誘えば、おまえはもう「うん」としか言えないところまできてる。
断ることなんてできないんだ。
「早く言えよ」
「もう、私たち、会わ…」
その続きだけは言わせない、絶対にな。
「好きなところへ連れて行ってやる。
おまえが行きたいところへ、どんなに遠くても。
地球の裏側だっていい」
「裏側?」
目をまん丸にして訊き返すと、おまえは噴き出した。
「無理に決まってるじゃない」と。
「んなことねぇよ、アルゼンチンだろ、あ、それともブラジルか?」
おまえは本当におかしそうに笑う。
「笑ってないで早く言えよ」
「じゃあね…」
そう言って、星一つ見えない夜空を真っ直ぐに指差した。