つむじ風。
「あ?空?」
俺は見上げながら訊いた。
「宇宙までは俺でも無理だぜ」
「もう、やだ」
髪を揺らしながら、またおまえは笑う。
「高いところに行きたいの。
今日は空の星をたくさん見上げたから、
今度は上から下の世界を見てみたいの。
この街が全部見えるようなところへ連れてって」
「夜景…か」
「うん、そう」
「わかった、約束する」
俺は小指をたてて、差し出した。
大抵の女は、俺がこんな子どもっぽいことをすると喜ぶ。
だが、おまえは
「私、約束って…嫌いなの。
絶対にそうなるって期待しちゃうから。
別に無理だったら、いいの」
と首を横に振って、俺の小指に指を絡めてこなかった。
「俺は必ず守る」
「…ううん、いいの。
じゃ、今日もありがとう、おやすみなさい」
そう言って改札口へと歩いていく。
「相変わらず、かわいくねぇな」
その背中に俺は呟く。
博子の姿が見えなくなるまで見届けると、
浩介たちの待つ車へと向かう。
後部座席に乗り込むと、煙草を吸った。
『約束って嫌いなの』
そう言ったときの、おまえの寂しそうな顔を思い出しながら。