つむじ風。
真ん中に黒くて太い河が1本。
それを横断するように何本かの光の筋。
そこを電車や車が通って行く様子まで見える。
河の右手が中央区。
俺たちが再会した場所。
赤や黄色の色とりどりの光が無数にうごめいている。
高いビルの窓から漏れる明かりも、数え切れない。
そして河の左手が住宅街。
山の中腹から、地全体に小さな、本当に小さな白い光が散らばる。
蛍を連想させるような、はかない光。
ここで、俺たちは「あの頃」を過ごした。
「ね、あの辺りをよく歩いたわね」
そう言って指差すが、
おまえの後ろに立つ俺は何も答えない。
「私の実家があの辺りで…」
なぜだろう、
ふいに夜景に浮かび上がったおまえのシルエットが、たまらなくいとおしく感じた。
「ねぇ、新明くんは今どのあたりに住んでるの?」
我に返った俺は、
ポケットに手を突っ込んだまま、顎をしゃくり
「あのへんだ」と答えた。
「適当ね、そんなんじゃ全然わからないわよ」
そう笑って、また眼下に広がる煌めく街に目を戻す。
俺もゆっくり進み出て
おまえと、並んでそれを見下ろす。
「ねぇ、新明くん。今日はありがとう」
「ああ」
「本当にありがとう」
「何回も言うなよ、聞こえてる」
「照れる?」
「つまんねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「都合が悪くなると、いつもそればっかり」