To.カノンを奏でる君
 親に相談する事を諦めた花音はいつもより更に深く深呼吸した。


(落ち着け、落ち着け。病は気から)


 胸に手を当て、呪文のように繰り返す。


 少しの間そうして、部屋に戻った。制服に着替え、カバンに教科書やノートを詰め込む。

 それから躊躇った後、花音は机の上に置かれていた参考書も教科書達の仲間に入れさせてやった。

『必勝!高校受験過去問集』と、どこにでもありそうなタイトルだ。これで何冊目だろうかと溜め息を吐く。

 ふと本棚を見やれば、ぎっしりと詰まった参考書。

 母は良さそうな参考書を見つけるなり即購入という、今流行中の教育ママだ。


 ――私立の高校へ推薦を出す事は決まったが、その高校の推薦は試験も受けなければならない。

 その為に勉強しなければならないのだ。母のご機嫌取りの為だけに。


 部屋のドアノブに手をかけ、花音は大切な物を忘れている事に気づいて引き返す。


(忘れるところだった)


 机の横にかけてある紙袋を取る。

 中には、青色の包装紙とピンク色の包装紙で包まれた二つのプレゼント。祥多と直樹へのクリスマスプレゼントだ。

 これを忘れては大変だと、大切に握る。


 スクールバッグを肩にかけ、準備万端だ。そうしてやっと花音は部屋から出た。
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