執事と共に賭け事を。
スローイングラインに立ち、春樹は必死に呼吸を整えた。

春樹の脳裏には、怯えを隠しきれない恵理夜の表情が離れない。


――手元が、狂った。


恵理夜に当たりこそしなかったものの、6というなんの意味も無いエリアに打ち込んでしまった。

恵理夜の目がまん丸に見開かれているのがわかる。


「申し訳、ございません……」


思いの他弱々しい謝罪の声に、自分でもぎょっとした。


恵理夜は、まっすぐに春樹を睨んでいた。


その瞳には怒りがあった。

それは、弱い部分を叱咤しているかのように思えた。

春樹は、改めて呼吸を整えた。
< 163 / 254 >

この作品をシェア

pagetop