執事と共に賭け事を。
「あなたでも、どうすることも出来ないことってあるのね、春樹」


春樹と呼ばれた青年は、悔し紛れに言う主人の言葉に肩をすくめるしかない。

そう、彼は恵理夜の唯一の執事だった。


「お嬢様、流石にベッドの上にいてばかりではよくなりません。気分転換に、外に出てみては?」


恵理夜は、渋るように体を丸めたが、やがて覚悟を決めたように起き上がった。


「そうね。せっかく素敵な船で、海の上にいるんだもの。中にいるなんて馬鹿みたいだわ」


恵理夜がベッドから足を下ろすと、春樹はそっとそのふくらはぎに手を滑らせ持ち上げた。

そして、いつもより丁寧に磨き上げられた靴をその足に履かせる。


「行くわよ、春樹」

「はい、お嬢様」


春樹は、主人のためにスイートルームの扉を開いた。
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