やさしい手のひら・前編【完結】
「私、部屋に戻るね」

凌の顔を一瞬だけ見て、ドアの方へ体を向けた瞬間腕を引っ張られた

「行くなよ」

キャッ

ベットに押し倒されてしまい、私の目の前に凌の顔がある。私の両腕を耳の横で押さえている。どこを見ていいのかわからない

「川崎さんと別れて、俺のとこに戻って来い」

優しい目で私を見つめる。あの頃、私をいつも見つめてくれた目と同じ。何も変わっていない凌の目を反らすことができなかった

「凌、離して」

私の目から涙が溢れ、目尻へと零れていく

「亜美」

凌の顔が近づいてくる。私は凌の顔を避け、顔を横に向き壁を見た

「どうして、私の心の中に入ってくるの…?どうしてあの時浮気したの!浮気しなかったらずっと一緒にいれたのに・・・」

涙は止まることなく次から次と溢れてくる

凌が今どんな顔をしているのか私は見れなかった

「ごめん」

凌は急に立ち上がり、私の顔を見ず部屋から出て行ってしまった

ウワーン

どうしてうまくいかないのだろう。どうしてみんな幸せになれないのだろう・・・

私には健太がいるのに・・・自分のことなのに自分のことがわからない。でも凌が・・・

「凌・・・」

私も部屋から飛び出し、凌を探した。坂下の所に行ってもまだ戻っていなくて、いっぱい走って必死で探した。外に出ると海の匂いがして、私は海の匂いがするホテルの裏の方に行ってみた

外灯の明かりがあるが海は真っ暗だった。でも人影のようなものが見え、私は恐る恐る海の方に近づいた

「凌!」

砂浜に座っている凌を見つけた。名前を呼ぶとすぐに振り返りその場に立った

「亜美・・・」

「探したんだよ!どこ探しても、凌いなくて・・」

凌がいたことが嬉しくて、涙腺が緩んでくる

私は凌を探して何をしたいのだろう。本当は探すべきではなかったのかもしれない

私の気持ちは振り子のようにゆらゆら揺れていた

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