極悪彼氏
なにも変わってない渚さんはガラにもなく目に涙をいっぱい溜めていた。



なにも言わずに俺に近づき、涙の溜まる目で見上げられて。



こんなに小さかったのかと一瞬思ったけど、すぐに俺がデカくなったことに気が付いた。



「よく…頑張ったね…」



そう言って俺の腕を弱い力で何度も叩いた。



何で渚さんが泣くんだよ。



あの渚さんが…どうして俺のために…。



「泣かないでよ…」

「泣いてねぇよ、バカ」

「ふざけんな。渚さん泣かせたら想羽さんに怒られんじゃん」

「そうだな…、悪い…」



懐かしい声。



変わらない細いカラダ。



渚さんの香水の匂いが鼻の奥を刺激する。



想羽さんの…匂い…。



ヤバい、泣きそうだ…。



「全然会いにこねぇから心配してたんだから」

「ごめん…」

「でも、あたしがここ来るって知ってもいてくれたんだよな?」

「うん…、迷ったけど…」

「ありがと、琥太郎」



渚さんとの思いではたくさんありすぎて言葉にならない。



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