宵闇の世界 -world of twilight-
「あんたの力…もらう…」


深海の色に似たマーメイドドレスを翻して、蒼維は近づいてきた。
いったん立ち止まり、虚ろな瞳で四人を見つめた。
無表情のまま唇の端だけ持ち上がり、その異様さに辰樹は身動きできなかった。
それは一瞬の出来事だった。
蒼維が一気に距離をつめ、三人の後ろにいた辰樹の前に移動していた。


「…逃がさない…」

「だめだよ、蒼維!!」

「うるさい!!」

「う…ぐぅ…」


黒羽の言葉に逆上した蒼維は、辰樹の首を両手で握り持ち上げた。
軽々と持ち上がる辰樹の口からは、息苦しさによる苦悶の声が漏れた。
スラストも黒羽も蒼維を止めようとするものの、下手に刺激するわけにもいかず手出しできない時間が流れた。
蒼維は更に口の端を持ち上げ、辰樹を持ち上げたままその首筋に口を近づける。


「っ…」

「!?」

「麗藍!!」


とっさに麗藍は辰樹の首筋の場所に、腕を差し込んでいた。
ポタリと腕から血が一滴滴り落ちた。
辰樹はそれを見て、目を見開いた。
蒼維も予想外の出来事に少し目を見開いたものの、すぐにその表情を戻した。
蒼維は辰樹の首から手を離すと、麗藍の腕を強く握り締めた。


「ゴホ…はぁ…はぁ…」


辰樹は崩れるようにその場に座り込み、酸素を求め息を吸い続けた。
首には蒼維の手形にくっきり痕が残っていたが、それ以外の傷はなさそうだった。
スラストと黒羽はそのことに安堵したが、まだ物事の解決には至っていない。


「っ…ぁ…」


久しぶりに感じる感覚に、麗藍は声を漏らした。
しかし、その視線は黒羽に向けられており、それに気づいた黒羽は小さく頷いた。
蒼維は麗藍の腕に口をつけたまま、微動だにしなかった。


「『Fog of sleep』」


黒羽は蒼維の後ろに回りこみ、蒼維の体を抱きしめると耳元で小さく呟いた。
蒼維の体が緑色の霧で包み込まれる。
蒼維の体から力が抜け、その場に崩れるように倒れる。
蒼維の体を抱きしめていた黒羽によって、その体は地に落ちることはなかった。
麗藍はそれを見届けると、気を失なった。
倒れこむ麗藍の体をスラストが、すかさず抱きとめる。
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