宵闇の世界 -world of twilight-
「我は必要なかったか?」

「そんなことはないわ」

「いつになく残忍じゃない?麗藍」

「そう?」


何事もなかったかもように話す三人に、辰樹はそらしていた視線をようやく戻すことができた。
手にしたままの抜き身のままの日本刀を、鞘へとゆっくりと戻した。
彼らは自分に危害を与えることはないと、辰樹は判断しての行動だった。
鞘へと日本刀を納めると、いまさらながら手の震えに気づいた。


「あ…あの…」


辰樹が思いきって、三人に声をかける。
三人の視線がいっせいに辰樹を見つめ、少し居心地の悪さを感じた。
しかし、優しく微笑んだ三人に、その居心地の悪さもすぐに消えた。
辰樹は思いっきり頭を下げる。


「助けてくれてありがとう」

「怪我はないか?」

「無事でよかったわ」

「でも、君も勇気あるよね」


三人の労わるような言葉に、ここにきて初めて安堵感に包まれた。
辰樹は三人に【大丈夫。本当にありがとう】ともう一度伝えた。
スラストが辰樹の頭に手を置き、麗藍は辰樹の手を握り、黒羽は辰樹の肩をポンとたたく。


「ゆっくり事情を説明してやりたいのだが、まずは移動だ」

「もう日が落ちるわ。さっきよりももっと危険になるの」

「自己紹介もそのときするから」

「わかった」


辰樹が頷くのを確認して、三人は目を合わせて頷いた。
広大な森へと向かうため、丘を下り始めたとき、その異変は突如起こりだした。
森の木々が一気に凍ったのだ。
その異変を目にし、三人の表情が一気に険しいものに変わった。
辰樹はまたしても状況がわからなかったが、今の状況が芳しくないものであることは理解できた。


「失敗したみたい…まさか今日が新月だったなんてね…」

「止めるしかないわね。蒼維を…」


三人は森の前へと一気に走りよった。
いきなりのことで、辰樹は少し遅れて三人の後へと続いた。
森へと視線を向けていれば、ゆっくりと一人の女性が現れた。
表情のないその顔に、辰樹は背筋が凍るのを感じた。
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