宵闇の世界 -world of twilight-
「辰樹…落ち着いたか?」

「え?あ、うん」

「湯に浸かってくるといい。その間に着替えと食事を用意しておく」

「ありがとう…そうさせてもらうよ」

「こちらです」


スラストの心遣いに感謝をして、辰樹は捺瀬の後をついていった。
その姿を見送ったスラストは椅子から立ち上がり、外へと視線を向けた。
小さく何かを呟き、パチンと指を鳴らした。


「…結界を少し強めたのですか?」

「ああ。新月なのもあるが、力が集いすぎているからな」

「辰樹から風の力を感じました」

「捺瀬もか。我もだ」

「本人次第ですね…」

「……村に行って来る」

「私は3人分の食事を用意しておきますね」

「捺瀬の料理はおいしいからな」

「ありがとうございます」


捺瀬は満面の笑みを浮かべ、少し照れたようにスラストを見つめた。
スラストは捺瀬の頬に口付け、マントを翻した。
スラストを見送り、すでにスラストのいない場所をもう一度見つめた後、捺瀬はキッチンへと続くドアを開けた。




捺瀬に連れてこられた浴室で、小さく辰樹は息を吐いた。
ブレザーのジャケットを脱ぎ、ネクタイを弛めると少し気持ちが楽になった。
制服を脱いで浴槽に入れば、その暖かさに自然とまぶたが落ちてくる。
普段どおりの学校生活を終え、このまま何事もなく一日が終わるはずだった。
あの地震がなければ、辰樹自身ここにはいなかったかもしれない。
しかし、地震のせいで…と思う気持ちは、不思議と沸いてこない。
今の状況をどこかで受け入れていた。


「辰樹、着替えここにおいて置く」

「あ…ありがとう」


どれほどそうしていたのだろう?
スラストの声で、辰樹は意識を戻した。
少し寝ていたのかもしれない。
程よく温まったところで辰樹は浴槽から出ると、簡単に体と髪の毛を洗い着替えを済ませた。
あまり長くこうしていても、捺瀬やスラストの迷惑になってしまう。
スラストの用意した深緑のTシャツに、前開きの黒のパーカーを羽織り、黒のジーンズをはいて、辰樹は捺瀬とスラストの元に戻った。
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