閃火高遠乱舞
 しばらくして。
宝王子は、異変を感じ取っていた。
何かが変だ、一体何だ?
 辺りを見回してそれが分かると、宝王子は慌てた。
ついさきほどまでいた飛雲がいない――!!
「しまった…!飛雲が本陣に……!!」
「何やて?俺らの目をかい潜ったって言うんか!?」
 宝王子の絶叫に、柳が反応する。
どこを見ても飛雲らしき影はない。
似た顔はあれど、あれほどの覇気の持ち主はない。
まさに虎と言わんばかりの闘気だったのだから。
「大山!飛雲がどこにいるか分かるか!?」
「ええと……帝!背後に戦団が出現しました!!」
「帝の背後!?チッ、さすが、目がいい…」
 帝の背後は雑木林だった。
そのせいで「漆黒」は前方に控えていたのだ。
まさか全く道の知らない林の中を抜けて来るとは思っていなかった。
侮っていたのかもしれない、飛雲という男のことを。
「退くぞ!本陣を何としても護り抜け!!」
「おぉぉぉっ!!」
 兵たちはすぐに騎乗し、撤退する。
行かせまいとする中国兵を必死で蹴散らしながら。
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