閃火高遠乱舞

 焦る宝王子を待ち受ける中、本陣はすでに戦闘を開始していた。
帝の号令に従って展開する。
「…貴方が日本の軍帝ですね?」
 ザンッと斬り開かれた眼前から現れたのは、宝王子が追う飛雲。
それを見て、帝は敗戦悟った。
「全軍、ただちに北海道支部に撤退!急げ!!」
 動揺を見せた全軍を叱咤するその声に、わずかな乱れもない。
それを信じた本陣配置の兵たちはすぐさま戦闘を止め、下がっていく。
 それを追おうとした中国兵を止めたのは、飛雲の声だった。
「さすがですね」
「…何のことか、分からぬな」
「私はこう見えて、数多くの戦を経験している。敗戦色が強くなった敵将は、真っ先に自分が逃げようとする。でも、貴方はそうじゃない」
 階位が上がる者ほど、保身に走るものだ。
それこそ、指揮しなくてはならない兵たちを捨ててでも。
 だが、帝は違う。
「…貴方は自身を盾にしてでも、兵を護ろうとしている」
「上に立つ者として、当然のことだ」
「そうですね。でも、それはとても困難なことです。生半可な決意では、決してできない」
 そう言って、飛雲は槍を下げた。
それに動揺したのは彼の配下ではなく、追っていた日本兵だ。
「貴方はここで死ぬべきではない」
 そう告げた飛雲は、まさしく龍が駆るような鮮やかさで軍を率い、撤退していった。


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