閃火高遠乱舞


 宝王子は急いで一人佇む帝へと駆け寄った。
傷は、ない。
傷どころか、討ち合った痕跡すらなかった。
「帝…?」
「飛雲、青龍か…噂以上の義兵よ」
 感嘆する帝に、宝王子はなんとなく悟る。
なんだかんだ言っても、帝とは即位以来の付き合いだ。
知り難い思考とはいえ、なんとなくは分かる。
 帝は、分かっていながらこのようにしたのだ。
どこからがその策かは分からないが。
全軍撤退のときの対応は、帝がしたかったからした。
したくないことは偽りでもしない、それが帝だと知っている。
それで充分だった。
「戻るぞ」
「はい」
 中国。
なかなか良い武術を持っている。
 帝の囁きは、宝王子の本心でもあった。
先のアメリカも、並々ならぬ覚悟と決意の焔を持っていた。
 飛雲もまた。
 いずれまた、会うときが来よう。
それが戦場なのかは分からないが。
 だが、恨めない人物ばかりだ。
きっと彼らの主君もまた、帝のような人物なのだろう。
 そう思うと、少しでも早く平和な世の中で再会したいと感じた宝王子だった。


< 31 / 95 >

この作品をシェア

pagetop